
企業の中には、外部との接点を積極的に持ち、新しい技術や発想を社内へ持ち込もうとする人材がいる。
こうした人材は、研究機関、大学、スタートアップ、あるいは異業種との関係を築き、企業の外側に広がる知の世界に触れている。いわゆる**バウンダリースパナー(境界連結人材)**である。
しかし、多くの企業において、こうした人材は組織の中で必ずしも目立つ存在ではない。
むしろ、組織の周縁にいることが少なくない。
なぜだろうか。
官僚的な意思決定構造
企業組織の意思決定は、多くの場合、一定の手続きと合意形成のプロセスを経て行われる。
稟議書が回り、部門間の調整が行われ、上位者の承認を得て物事が進む。
このプロセス自体は合理的であり、大規模組織が安定して運営されるためには必要な仕組みでもある。
しかし同時に、この仕組みは組織文化や既存の価値観と整合的な提案を優先する傾向を持つ。
つまり、
- 社内で理解されやすい提案
- 合意形成がしやすい提案
- 過去の延長線上にある提案
が、通りやすくなる。
この構造の中では、組織文化に適応し、既存の枠組みの中で調整能力を発揮する人材の評価が高くなる。
外に目を向ける人材の孤立
一方で、外部に目を向ける人材は、必ずしもこの構造に適応しやすいとは限らない。
大学の研究者と議論し、スタートアップの技術を調べ、海外の動向を追う。
こうした活動は、社内の既存事業とは直接結びつかないことも多い。
結果として、
- 社内の議論の文脈とずれる
- 既存の評価指標に乗らない
- 周囲の理解を得にくい
という状況が生まれる。
そのため、企業の文化や風土に対して、ある種の疎外感を感じている人も少なくない。
そして残念ながら、こうした人材は組織内の評価が高くなるとは限らない。
むしろ、組織文化に深く適応し、合意しやすい提案を整えて稟議を通していく人材の方が評価されやすい。
ラインではなくスタッフに多い理由
こうした背景から、バウンダリースパナー的な人材は、企業の中で次のようなポジションにいることが多い。
- 技術企画
- 研究企画
- オープンイノベーション推進
- 新規事業探索
- 外部連携担当
つまり、ラインよりスタッフポジションである。
ライン組織は既存事業の責任を負うため、短期的成果が求められる。
そのため、外部探索型の活動とは必ずしも相性がよくない。
結果として、外部との関係構築を得意とする人材は、組織の中心ではなく、周辺部に配置されることが多くなる。
オープンイノベーションで起きる「人選のミスマッチ」
ここで問題が生じる。
企業がオープンイノベーションを推進しようとするとき、人事はしばしば社内評価の高い人材を担当者に任命する。
しかし、ここに大きな落とし穴がある。
社内評価の高い人材は、
- 社内合意形成
- 組織調整
- 稟議プロセス
には長けている。
しかし、外部の研究者やスタートアップと議論し、新しい知を探索する能力とは、必ずしも同じではない。
むしろ、外部との関係構築に長けているのは、組織の中で少し異質に見える人材であることが多い。
スタッフポジションに眠る人材
企業の中には、静かに外部との関係を築き続けている人材がいる。
研究者と議論し、技術動向を追い、異分野の可能性を考え続けている人たちだ。
彼らは必ずしも目立たない。
管理職になっているとも限らない。
しかし、オープンイノベーションの時代において最も重要な人材である可能性が高い。
もし企業が本気で外部との共創を進めようとするなら、
まず社内を見渡してみるとよい。
派手な肩書きを持つ人ではなく、
スタッフポジションで静かに外部との接点を持ち続けている人材。
そこに、企業の未来を広げるバウンダリースパナーが眠っているかもしれない。
