4月1日の開業を前にして思うこと


4月1日の開業を目前に控え、緊張感が少しずつ高まってきました。
3月26日、36年間お世話になった産業技術総合研究所に、PC、携帯電話、IDカードを返納しました。
その瞬間、私は「産総研の三宅」から、ひとりの「三宅」になりました。
そして4月1日からは、「クロスバイオ技術士事務所の三宅」として、新たな一歩を踏み出します。

昨年末から、独立後の事業構想を本格的に考え始めました。
理念は何か。どの領域を自分の事業ドメインとするのか。誰を対象顧客とするのか。どのような価値を提供するのか。価格をどう設計するのか。
ひとつひとつ、悩みながら、考え続けてきました。

なかでも、最も悩んだのは「自分は何を価値として提供できるのか」という問いでした。
意外なことに、自分自身のことは、そう簡単にはわからないものです。
思いつくことを紙に書き出しながら、自分の経験を一つずつ見つめ直しました。

私は36年間、アカデミアに近い世界で仕事をしてきました。
その間に、研究現場の実情だけでなく、制度や組織の動き、さらには官庁の仕組みについても、企業の方々とは異なる視点で理解してきたつもりです。
では、そうした経験に基づく知識を、どのように価値へと変えていけるのか。
そして、その価値を最も必要としているのはどこなのか。
そのことを、繰り返し考えました。

近年、アカデミアでも「橋渡し」や「社会実装」が重視されるようになってきました。
それはとても重要な流れだと思います。
一方で、研究成果や技術を企業に届けた後、その技術をどのように事業へと育て、経営に貢献する形にまでつなげていくかという部分には、なお大きな難しさが残っているように感じています。

もちろん、企業側にも多くの努力があります。
ただ、外部から得た技術を、実際の事業として成立させるには、技術そのものとは別の力が必要です。
市場との接続、経営資源の配分、事業仮説の構築、組織の意思決定、資金調達、提携先との連携。
そうした要素が複雑に絡み合うため、技術移転だけでは十分ではなく、その先にある「事業化」の壁を越える支援が必要なのではないかと思うようになりました。

振り返れば、私自身も、研究成果を持ちながら、その先に十分に手を伸ばせないもどかしさを感じてきました。
また、自らベンチャーに関わった経験を通じて、事業をつくることの難しさも学びました。
研究が優れていることと、事業として成り立つことは、まったく別の課題を含んでいます。
だからこそ、研究、応用、事業化、そして企業経営という一連の流れをつないで考える視点が必要なのだと思います。

産総研を退職した今、ようやく取り組めるようになったことがあります。
それは、技術移転のさらにその先まで踏み込み、新規技術の事業化や新規事業立ち上げを支援することです。

クロスバイオ技術士事務所は、まさにその領域に特徴を持つ存在でありたいと考えています。
基礎研究、応用研究、事業化、企業経営という複数の世界をまたいで経験してきたからこそ見える景色があります。
その経験を、これからは企業の皆さまの新規事業創出や技術経営の支援に役立てていきたいと思っています。

そしてもう一つ、大切にしたいことがあります。
それは、このような領域に関心を持ち、異なる世界をつなぐことに価値を見いだす人材を、少しずつでも育てていくことです。
技術を社会に生かすには、研究者だけでも、企業だけでも足りません。
その間を理解し、翻訳し、前に進める人が必要です。
私は、そのような役割を担う人材がこれからますます重要になると考えています。

こうして今、静かに開業の日を迎えようとしています。
不安がないわけではありません。
けれども、これまでの経験を振り返りながら、自分にできることを見つめ直した末に、この形にたどり着きました。

4月1日から、クロスバイオ技術士事務所として新たなスタートを切ります。
これまで支えてくださった多くの方々への感謝を胸に、一歩ずつ、誠実に歩んでまいります。

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masato-miyake
産学連携コンサルタント|技術士(生物工学部門)|知的財産アナリスト|研究開発・新規事業化支援の専門家 35年以上にわたり、産学連携、バイオテクノロジー、研究開発戦略、医療機器・ヘルスケア産業の事業化に従事。 大学・研究機関・国のプロジェクト・民間企業・ベンチャーのすべてを経験し、新規事業探索・研究開発マネジメント・技術経営(MOT)・知財戦略・産学連携コーディネーションを一貫してリードしてきた。 「共創共栄」を独自に定義し、現在は、企業とアカデミアをつなぐ戦略的産学連携を推進。